2026年8月26日(水)の濱瀬元彦 LIVE at JZ Brat vol.7では、バック・トラックを刷新して久々の演奏が行われる予定の楽曲『tree』。ベース演奏(Low F#)とマニピュレーションを担当するベーシストの清水玲さんに、『tree』にまつわるエピソードを伺いました。
Q1. 入院中のお父様が濱瀬元彦の『tree』を聴いたときのエピソード、印象深かったので詳しくお聴かせください。
27年前、父が心筋梗塞で倒れ、かなり重篤な状態で入院したことがありました。
当時、父は糖尿病も患っていたため、すぐに手術を受けることができず、まずは身体のコンディションを整えるために長期間の入院生活を送っていました。
もともとFMラジオを聴く習慣があった父は、入院中、夜なかなか寝付けない時にもラジオを聴いていたそうです。ある夜、そのラジオから濱瀬先生の『tree』という楽曲が紹介され、流れてきました。父はその音楽にとても感銘を受けたらしく、当時ほぼ毎日のようにお見舞いに通っていた僕に、翌日そのことを話してくれました。

ラジオ放送当時のもの
『tree』が収録されているアルバム(01)
1985『REMINISCENCE』
(Sound Design Record Inc. P33S20022)
父は普段、いわゆるシリアスな音楽を積極的に聴く人ではありませんでした。ですから、音楽について父と深く言葉を交わした記憶は、僕の人生の中でもほとんどありません。そんな父が、僕の恩師である濱瀬先生の作品に、ラジオを通して偶然出合い、その音楽に心を動かされたことは、僕にとってとても嬉しい出来事でした。音楽について特別な知識を持っていたわけではない父にも、『tree』という作品の持つ何かが、たしかに届いた。そのことが嬉しかったのだと思います。
振り返れば、それは父と僕との、数少ないというより、ほとんど唯一と言っていい音楽的な接点だったのかもしれません。そして、その一曲が濱瀬先生の『tree』だったことは、今になっても、とても印象深い思い出として胸に刻まれています。
それから27年を経て、今回のライブでその『tree』を自分自身が演奏することになったことには、何とも言えない感慨があります。父が病室のラジオで偶然耳にした一曲を、今度は僕が濱瀬先生とともに演奏する。その長い時間のつながりに思いを馳せると、とても不思議で、特別な気持ちになります。
清水玲もrecording, mixing, masteringのエンジニアとして参加
『tree』が収録されているアルバム(02)
2018『REMINISCENCE』〈新レコーディング〉
(STUDIO MULE)CD/レコード盤

Q2. 濱瀬元彦 LIVE at JZ Bratでは、どのような役割を担っていますか?
基本的には、いくつかの役割を担当させていただいています。
まずライブの音楽面では、全楽曲のバック・トラックの管理とマニピュレーションを担当しています。当日使用するバック・トラックをクリックと同期させた状態で準備し、曲ごとの音量やバランスを整え、本番では進行に合わせて正確に再生・コントロールしています。

そしてもちろん、ベーシストとしての演奏も大きな役割です。バッキングのベースが必要な楽曲では、生演奏によって楽曲のグルーヴやダイナミクスを支えています。
このライブで僕が使用しているのは、最低音を通常のLow Bよりさらに低いF#まで下げた変則調弦の6弦ベースです。濱瀬先生が使用されている6弦ベースと比較すると、楽器全体が4度低い音域に設定されています。このチューニングの6弦ベースを日常的、かつ実践的に使用しているベーシストは、僕の知る限り世界的に見てもほとんど例がなく、おそらく非常に特殊な存在だと思います。これは僕自身のアイデアと、それを実際の楽器として成立させてくれた楽器メーカーPROiXの高い技術力の賜物です。使用している弦についても市販品ではなく、この特殊なチューニングと楽器の性能を引き出すためのハイグレードなPROiXオリジナル弦を使用しています。
そのため、単純に濱瀬先生と同じ音域でベースを重ねるのではなく、より低いレンジから楽曲全体を支えたり、バックトラックと生演奏の間をつないだりと、この編成ならではの役割を担うことができます。

また、当日は会場でのサウンドチェックを通して、バック・トラックの音量や各楽曲のバランスを確認し、その場の音響環境に合わせた調整も行っています。
ライブ以外の制作面では、濱瀬先生のYouTube動画の制作や、再発された諸作品のミックス、マスタリングにも広く関わらせていただいています。過去に制作された作品の音楽的な意図や質感を尊重しながら、現在の再生環境でもその魅力がきちんと伝わるように仕上げていくことも、大切な仕事の一つだと考えています。
さらに、演奏や制作とは別に、濱瀬先生のコンサートそのものの運営も担当しています。会場の選定・確保、会場側との音響に関する打ち合わせをはじめ、公演を実現するために必要なさまざまな事項を整理し、当日まで滞りなく進めていくことも僕の仕事です。この運営については、同じく濱瀬先生の門下である福田さんと二人で担当しています。福田さんはプロフェッショナルのデザイナーであると同時に、ベーシスト、シンガーとしても活動されている方で、それぞれの専門性を活かしながら二人でコンサートを支えています。
つまり、僕の役割は単にステージ上でベースを演奏することだけではありません。演奏、マニピュレーション、ミックスやマスタリングを含む音源制作、映像制作、そして公演運営まで、さまざまな立場から濱瀬先生の活動に関わらせていただいています。案件それぞれに仕事内容は異なりますが、共通しているのは、濱瀬先生の音楽そのものが最良の形で聴き手に届くようにすることだと考えています。
Q3. 今後の予定について、コメントをお願いします。
今後もベーシストとしての演奏活動を軸にしながら、作編曲やレコーディング、ミックス、マスタリングなど、音楽制作全般に幅広く取り組んでいきたいと思っています。
直近では、10月17日にJZ Brat SOUND OF TOKYOで開催される「afrontier」に出演します。当日はWaterfallsとIssei Masatomi Strange Frog All Starsという、それぞれ性格の異なる二つのバンドで演奏する予定です。
そして10月29日には、森内麗香さんのREIKA TRIOのワンマンライブが、四谷のSOUND CREEK Doppoで予定されています。こちらも継続して参加している大切な活動の一つで、トリオならではの自由度の高い演奏をさらに発展させていきたいと思っています。
近年は演奏だけでなく、アレンジやプログラミング、レコーディング、ミックス、マスタリングまで含めて、一つの作品を完成させる仕事も増えてきました。ベーシストという立場を核にしながら、音楽全体を俯瞰して作品を作る仕事は、今後さらに深めていきたい分野です。
また、自分がこれまで演奏や制作の現場で培ってきたものを、レッスンを通じて次の世代に伝えていくことも、引き続き大切な活動の一つだと考えています。
演奏、制作、教育というそれぞれの活動は、自分の中では別々のものではなく、すべてが相互に影響し合っています。これからも、一つの肩書きに自分を限定することなく、その時々で面白いと思えることに取り組みながら、自分にしかできない音楽を形にしていければと思っています。
(2026年8月10日)
【清水玲】Manipulation/Electric Bass
大学在学中にプロ活動を開始。川本真琴、松浦亜弥、藤本美貴、モーニング娘、TRFなどのレコーディングやコンサートに参加。StudioLung「スラッピング・スタイル・ベース科」インストラクター。濱瀬元彦の2018年『INTAGLIO』『REMINISCENCE』に、レコーディング、ミキシング、マスタリングのエンジニアとして参加。
2022年『Technodrome variant』でも、ミキシング、マスタリングのエンジニアとして参加している。
https://www.shimizurei.com/

